鉄道趣味雑記帳

鉄道の旅と模型が好き

天賞堂ダイキャスト製 C61 20号機の空転問題

   そこまで実機を再現しなくていいです……

 

 思わずそう零してしまうほどには致命的な空転を起こす持病を抱えていた天賞堂のダイキャスト製C61型蒸気機関車

私の手持ちはJR東日本で動態保存中の20号機ですが、基本仕様はどのバージョンでも変わらないはずなのでおそらく天賞堂のダイキャストC61全般が抱える問題になっていると推察します。

 

 平坦線では特に問題のない走りを見せてくれるのですが、上り勾配に入ると途端に空転(スリップ)を起こす、そしてそれほどキツくないはずの勾配でも牽引力の低下によって止まってしまう。流石に止まってしまうたびに押しに行くのは手間というレベルではないので、なんとかしようと空転時の様子を観察して対策を講じることにしました。

 結果、特別な工具を必要とせず、作業自体も1~2分もあれば終了する程度の加工で劇的に改善したので、同じ空転問題に苦しむ誰かへの助言になればと備忘録的に記しておきます。

 

・手順

 

1. 従台車を支えるバネを撤去する

 

以上です。

 

困った果てにこんな辺境までたどり着いた初級者向けに、作業手順を画像付きで解説しておきます。

 

作業手順

 

 まず従台車を外すために車体に固定しているネジを外します。画像にも示した通り2ヶ所でネジ止めされているので、このネジを両方とも外してしまいましょう。順番としてはプラスネジ側にバネが仕込まれているため、「マイナスネジを外す→従台車が跳ね跳ばないよう手で抑えながらプラスネジを外す」という手順が良いでしょう

プラスとマイナスのドライバーがそれぞれ必要

 

 両方のネジを外したら、従台車が跳ねないようにそっと真上に持ち上げます。このとき次の画像でも示した、従台車とバネの間に挟まれている透明ワッシャーをうっかり飛ばしてしまわないように注意します。ものによってはグリスで従台車側に貼り付いた状態になっているので、その場合はあまり神経質にならなくても大丈夫です。

 

従台車を取り外したところ、従台車側に透明ワッシャーが貼り付いた状態で取れている

 

 先の画像で示したバネを撤去したら、今までの手順を逆側にたどって従台車を組み付け直します。透明ワッシャーはバネが従台車を押し下げるためのものなのでバネと一緒に撤去しても構いませんが、気になる人はそのまま残してしまっても良いでしょう。保管も面倒ですし。

 

従台車を組み付け直したところ、バネの支えがなくなっているのが分かる

 

 無事ネジ止めが済んだらこれで作業は終わりです。今までの空転っぷりはなんだったんだというぐらい快適に走るようになります。

 このバネ外して大丈夫?と不安になるかもしれませんが、外した状態で1時間ほど走り続けていても特に問題は起こりませんでした。ただし逆機状態で高速走行させるとポイントなどで跳ねて脱線を起こす可能性はありますが、まぁそんな極端な運転は通常しないということで……

 

 

おまけ:なぜこれで改善したのか?

 この先はなぜこれで空転癖が直ったのか?という理論的な部分が気になる人のための補遺となります。

 

 ふんわりとした説明になりますが、空転という現象は車輪とレールの静摩擦力(一般的に粘着力と呼ばれる)に対して動輪を回す力(駆動力)が上回った時に発生します。雑にまとめれば、空転が起きている状態というのは粘着力に対して駆動力が大きすぎて動輪がレールを捕まえられない状態です。

 

 なので空転が発生した場合、模型的には動輪の駆動力が粘着力を下回るまで速度を落とすか、そもそもの粘着力を増やすかで対処することになるわけです。ただ常に機関車の動輪を監視し続け、空転を起こす度に速度を落として復帰を試みるのは(それで復帰するという前提があっても)ちょっと手間ですよね。もちろんそういうものも含めて模型運転の醍醐味ではあると思うのですが、一周毎に確定で空転を起こされたらたまったものではありません。

 

 そのため、基本的には模型の空転対策は粘着力を稼ぐ方向となります。粘着力は軸重(車軸一つにかかる重量と考えてもらって大丈夫です)に比例して強くなります。簡単に言ってしまえば動輪にかかる重さを増やしてしまえばその分滑りにくくなるというだけの話ですね。この方向性でのアプローチでよく使われる方法が補重(放り込めるところにウェイトを追加)です。

 それ以外ではトラクションタイヤと呼び習わす、ゴムタイヤを装着した車輪を用意するのも粘着力を稼ぐ手段になります。(こちらは集電を犠牲にしなければならないため、車両の集電構造によってはデメリットが大きい)

 

 ただし、空転を左右するのは「動輪の粘着力」という部分に気をつけないといけません。そもそもの重量が足りていなくて空転を起こしている場合には適当にウェイトを追加すればいいのですが、車両自体の重量は十分なのに各車輪への重量配分が適切でない場合には、下手にウェイトを仕込んでも思ったほどの効果が上がらないことがあります。

 この流れで動輪に先輪従輪を含めた車両全体での重量配分が上手くいっていない場合を出したあたりで勘の良い方は気づかれたと思いますが、今回問題になったC61はこちらのタイプです。

 

 それではこの先が核心となります。C61が上り勾配で空転を起こしている時の状態ですが、実はこのときにキャブの屋根あたりに軽く指を乗せる(添える程度、力を入れて押し下げる必要は全く無い)と、空転が収まり牽引力が戻ります

 ここから「本来上り勾配でも空転を起こさないだけの粘着力(≒車両重量)があるのだが、それが何らかの理由で動輪に乗っていないのではないか?」という推測が立てられるわけです。

そして上り勾配では重さのかかり方が後ろ側に偏ること、キャブ側に軽く下向きの力がかかると空転が収まることから、どうやら上り勾配でキャブ側からボイラー部を持ち上げる力が働いているらしいぞ、ということも容易に推測できます。

 

 この点を踏まえてC61の従台車をチェックすると、従台車がなにかの弾みで浮き上がらないようにレール側に押さえつけているバネの反発力が妙に強いことに気が付きます。

よってC61が抱えていた空転癖は

 

・従台車をレールに押し付けるバネの反発力が強すぎる(根本的な原因)

 →勾配に入ると重さのかかり方が後ろ寄りに移動するため、バネの反発力によってボイラー部全体に坂の下側から持ち上げられるような力が働く。反作用で重量は従台車に逃げる(起こっている作用)

 →ボイラー部全体がキャブ側から空中に持ち上げられたような状態になってしまい、動輪に本来の重さがかからなくなり粘着力が低下した結果空転を起こす(結果)

 

というメカニズムによって発生していたと判明しました。

 

 故に根本的な原因「従台車をレールに押し付けるバネが強すぎる」を解決すればそれだけで良いことがわかりますね。

対処としてはバネを切り詰めて反発力を調整するであるとか、もっと柔らかいバネに交換するという方法もありますが、一番手間がかからない方法としてバネそのものを除去してしまうという方法を提案したというわけです。

 この方法であれば全体を分解してウェイトを追加する必要もないので、加工のハードルが低い点も評価ポイントです。

 

 なお、従台車のバネ撤去後のC61の挙動について、バネを抜いた事により構造的に従台車はただ引っ張られるだけとなり機関車の重量が一切かからなくなるため、バネがあった時に比べると従台車はやや不安定になりますが脱線が頻発する程にはなりませんでした。連結器から伝わる荷重もそのままボイラー部に抜けるため、少なくとも前進時は従台車自身の重量だけでもきちんと線路に追従できるようです。